イタリア旅行 その2

ボンからミラノ行きの寝台列車に乗り込むなりJulianと出会った。


2段ベッドが両側に設置された4人部屋。今思えばちょっと怖いか?狭いベッドにカーテンゆらゆら1枚で仕切られるだけ。恐ろしくデカくていかつい男の人が相部屋になる可能性もフツーにあるんだし(怖)。おまけに夜をまたぐ長距離列車って、車掌さんがパスポートを回収して持って行ってしまうから荷物が盗まれるかも・・・、と思うとトイレも心穏やかに行けない。


でも私に待っていたのは、爽やかで優しそうな好青年の代名詞みたいなカナダ人のJulianとの出会い(^^)v


同世代くらいの男の子で、顔はフィリピン人、発音は超北米アクセント。と言うかネイティブ・カナディアンなんだな。その頃の私は、英語よりドイツ語が日常だったからすぐには出てこなかったけど、もう英語を使う事自体が新鮮で、英語ばっか勉強していた高校生の頃が蘇ってくるようで話すのも楽しくて楽しくて。


Julianは、私と同じ気ままな一人旅の途中。北米大陸からヨーロッパ大陸に周遊旅行に来ていた。小さな荷物一つで、大学を出て社会人になる前に色々見て回って経験しようと思って、みたいな一番気楽な旅。目的地も滞在期間もその都度自分で決めて、次の動きを決めていた。目的地はフィレンツェとローマ、くらいな大雑把な予定だった私の旅とおんなじ。ただ出発点が違っただけ。数ある列車の中で、Julianは私が予約した14:19 Bonn発の列車に偶然乗っていた。


「ヨーロッパの列車の旅」と日本人が聞けばロマンスが漂うけど、実際こんな出会いに満ち溢れている。


Julianとはその後、ミラノで乗り換えてフィレンツェ観光までずっと一緒にすることになった。


所で私の中では、本当は北ヨー[[]]ロッパから南ヨーロッパへ向かうと言ったら、ブレンナー峠を越えて行く、と言うのが当たり前だったんだけど、現実は違った。

学生の身分だから車なんか持ってないし。借りるにしても、慣れない逆交通ルールでいきなり長距離も不安だし
・・・・・・で、諦めた。

実は、母から借りた『ブレンナー峠を越えて』という小塩節さんの本を読んだ事があった。
これが実に印象深い本で、「峠」と言うものをこんなに意識的に意識したのは初めてだった。
この本で、西ヨーロッパって北から南へ移動するにつれ景色だけじゃなくて、聞こえてくる言語も天気も
空の色も、人々の気質も、もう何もかもが明るくなっていく、と知ったのが面白くて面白くて
外国なのにつながっていることを今更ながらに実感して、大陸なんだなぁとつくづく思った。
この南欧・イタリア旅行はそれを実感するのが目的でもあったのかな、今思うと。

ドイツからイタリアへ列車で入るには、一体どうやって行ったんだろう(・・? …と思って
当時の思い出のつまった箱をまさぐってみたらこんな紙切れメモが出てきた。


14:19 ab → 21:41 an Basel
   Eurostar


一回、スイスのバーゼルで乗り換えたのかな?全然覚えてないや。イタリアへはまずミラノに入って、そこから乗り換えてフィレンツェに向かった事だけはしっかり覚えてるんだけど。


Julianとは乗りこんでからずーーーっと話し続けていた気がする。大好きな『Before Sunrise』と言う映画そのまんま。あんな感じでとりとめもなく語り続けていたんだと思う。映画と違うのは…恋心にはならなかった事かな( ̄∇ ̄*)ゞ


消灯時間(そんなんあったか?)になって、体も頭も心地よく疲労していたせいかすぐ眠りに落ちた。翌日、小部屋で一番に目が覚めた。すぐ窓の外から目に飛び込んだ景色に圧倒された。圧倒されたけど、暫くは夢の中にいるような気がしていた。あの感覚、今でも忘れられない。ドイツでは絶対見られないような山のカタチ。山のカタチがまるで異国だった。



南ヨーロッパに来たんだ!


自然から感じる異国情緒。これはたまらん。少し目を閉じたらドイツとは別世界に来てしまった ― そんな感じ。
体はじーっと止まったまま、しばらく一人で夢と現実を行きつ戻りつしていた。この小さな目を開けただけでこんな衝撃を受けたのに、脳内はあんなに激しく感動していたのに、誰に悟られても何も困りはしないのに、私は目を覚ました時の姿勢のままほとんど体を動かさないようにして、ただただ自分の心の中だけでこの南欧への入り口に感動していた。